障がい者雇用の取り組み vol.063
2017/04/07

障がい者雇用を
多様性の強みとし
個性を仕事に
活かすことで
新たな価値を創造

プロフィール

キリン株式会社

人事総務部 多様性推進室 室長
岩間 勇気

中畑 佐知子

「障がい」という多様性を事業戦略に活用することで
戦力へと成長させ社内での多様性受容推進にもつなげる

いわまさん主に2005年以降、障がい者雇用で顕著になっているのが「戦力として期待する」という企業の姿勢です。「戦力として期待する」ことの内容に関しては企業個々によって異なるものの、一つだけ共通する点があります。それは「多様な人材の積極的な活用(ダイバーシティ)」にほかなりません。キリン株式会社の場合、この点についてHPの「障がい者採用情報」の冒頭に次の一文を掲げています。

「キリン株式会社では、従業員と会社はイコール・パートナーであるという人事方針に基づき、成長意欲を持つ多様な従業員が、多様性を強みに変えていきいきと仕事ができる自由闊達な風土をめざしています。
性別、国籍、障がいの有無、子育てや介護などのライフイベントにかかわらず、多様な人材が活躍することで多様性からイノベーションを生み出し、新たな飲料文化を創りだすことにつなげていきます」

では多様な人材、とりわけ障がい者の雇用について具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。人事総務部多様性推進室の岩間勇気室長は、次のように話します。「雇用率は法律上のルールですから、それを満たすのは当たり前のことです。したがって、雇用率は粛々と達成していく。これが企業にとってのコンプライアンス(法令遵守)です。しかし当社の方針は、『法律があるから障がい者雇用を行う』というコンプライアンスのみにとどまるものではありません。障がいの有無、性別、年齢に関係なく、さまざまなお客様に当社の飲料をご利用いただいています。重要なのは、多様なお客様に対して当社の活動や商品を通じて、どのような価値を創造し、実現できるのか。障がいのある方ならば、まず、一人ひとりで異なる障がいについて、多様性(つまり個性)という認識のもと、当社は迎え入れます。ご自身・周囲がお互いの違いを認め合っていきいきと働き、仕事を通じてご自身の個性を価値に変えていっていただく。この“価値”とは、お客様のことを第一に考えた企業活動への参加であり、貢献です」

このような趣旨に沿って行われたのが、岩間さんが紹介する視覚障がい(全盲)の社員を講師としたワークショップ(体験型講座)の事例です。
「その視覚障がいの社員は、たとえば「FIRE(コーヒー)」や「氷結(チューハイ)」の缶といった、ダイヤカットが採用されたパッケージなどであれば触って判別できるのですが、一斉に並べられた缶ビールや缶コーヒー、ペットボトル入りの飲料などが同じ形状のパッケージである場合、どれが何の商品であるか、またどのフレーバーなのかもわかりません。
ワークショップ参加者にも同じ体験をしてもらい、彼が日頃どのように欲しい商品を買っているのかなど臨場感のある話をしてくれたこともあり、参加者は後日まで感想を言い合ったり、自販機を扱う部署からもワークショップの開催希望が入るなどの反響がありました。お客様も多様であり、多様な方が自由に欲しいものを選ぶことを可能にする商品づくりもお客様への貢献であり、新たな価値の創造に成りうるのではないか、という観点から切り込んでくれました。
このワークショップが、現時点でストレートに具体的な商品開発につながったわけではありません。しかしこうした試みが各方面に波及していき、やがて商品づくりの部門での開催にまで広がりをみせました」

加えて岩間さんは「ワークショップの事例のように、障がいのある社員自身が自分のことを理解してもらおうと主体的に動くことで、それが他の社員への啓蒙にもつながりました」と言います。

「自分の障がいの特徴を伝えることで、それを理解した他の社員が仲間として積極的に支援を行う。このことを通じて障がいのある社員の個性を、お客様に対するよりハイレベルな洞察、将来的には商品開発等に活かしていこうというのが、当社の多様な人材の活用、つまり障がいのある方に関する特徴的なアクションであると考えています」
岩間さんの話でわかるのは、キリンの障がい者雇用が事業内容と密接に関係しており、それが「戦力として期待する」ことへとつながっていることなのです。

知的障がい・発達障がいのある社員との接点を増やし、
会社の業務効率向上をはかるため、
多くの社員が訪れるサービスカウンター業務を担当

なかはたさんキリンの障がい者雇用でもう一つ特徴的なのが、知的障がい者に関する施策です。
「中野の本社は17階と19階以上がオフィスになっており、サッカーコートが入るような広いぶち抜きのスペースに各社や各部署が壁を置くことなく配置されています。その19階の中央に、会議用備品の貸出や管理、落し物などに関する業務を行うオフィスサービスカウンターが置かれています。業務を担当するのは、知的障がいや発達障がいのある社員。貸し出し備品や文房具などが必要な社員は、そこで手続きをして受け取ります。その際、必ず知的・発達障がいの担当者と触れ合うことになる。彼らのサービス業務ぶりに接するわけです」(岩間さん)

実際にサービスを受けた社員の反応については、岩間さんと同じ多様性推進室の中畑佐知子さんにうかがいました。

「障がいの有無に関わらず、社員同士が職場でいきいきと働き、多様性の受容を進めるすにはどうすれば良いか。キリンでは、障がいのある社員だけが集まって決まった仕事だけをするのではなく、各部署への分散配置を原則としています。ただし知的・発達障がいの社員の場合は、本人たちの特性が生きる職域、指導・職場体制の整備も大切と考えているので、オフィスサービスカウンターへの集中配置を行っています。しかし他の社員から離れた場所ではなく、執務フロアの中心にカウンターを設け、さまざまな職場の多くの社員と接しながら日々業務を行っています。
社内では、オフィスサービスカウンターに障がいのあるメンバーが所属しているという通知はしていたのですが、それを知らない人もいます。こうした人たちも含め『快く対応してもらえてほっとする』という声をいただくことがあります。メンバーも『ありがとう』の言葉がやりがいにつながったりしていますので、私たちとしては、一緒に仕事をする仲間としてお互いに認め合い、職場での多様性を実感してもらう効果があったと思っています」

現在、オフィスサービスカウンターでは、職域開発と会社全体の業務効率化を見越し、人事総務部門内の一部業務(データ入力や資料整理、会議準備などのサポート)を試行しており、今後の担当業務の拡大も検討されています。
「彼らの得意分野を活かしていこうというわけです」と中畑さんは話してくれました。

障がい者雇用で戦力化策を打ち出す企業が増加傾向にある中、その先端をめざすキリン。今後の動向にも期待を抱かせます。

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