障がい者雇用の取り組み vol.067
2017/09/27

定着支援の徹底と
自立に対する支援を
行うことで
更なる拡大をめざす

プロフィール

富国生命保険相互会社

人事部 ダイバーシティ推進室 副長
竹下 順子

受け入れ経験のある部署の担当者からの要望で
情報交換の場として“ランチ交流会”を実施

たけしたさん最初に、富国生命保険相互会社(以下、富国生命)の障がい者に関する雇用の現況(2017年9月時)を紹介します。

就労の場は、東京都千代田区の本社、千葉県印西市の千葉ニュータウン本社、全国62支社のいずれかです。勤務地に関係なく業務は一般事務。内容は、事務・庶務関係、保険契約申込書、保険金請求書のチェック(営業事務)など多岐にわたります。これは、生命保険会社の業務の大半が事務にかかわるものだからです。
雇用実績のある障がいは、身体、知的、精神などさまざまです。

「障がい内容によっては、その方を受け入れる部署ではしっかりとしたサポート体制が求められます。このサポートをバックアップするのが、本社の人事部門。支社には人事部門が置かれていませんので、きめ細かな対応が難しい。また、本社でも正確な状況が把握しにくく、その結果、せっかく採用した方の定着に齟齬が生じては、障がい者雇用の本旨をまっとうできなくなる恐れがあります。そこで、よりサポートが必要な方は本社や千葉ニュータウン本社を中心に受け入れを行っています」
こう話されるのは、本社人事部ダイバーシティ推進室の竹下順子副長です。

竹下さんの話のポイントは「富国生命の障がい者雇用の本旨は定着にある」ことと、「そのためには、本人と受け入れ部署の両者に対するダイバーシティ推進室からのバックアップが万全でなければならない」という点にあります。そこで、バックアップについての施策を具体的にうかがいました。

「たとえば特別支援学校と連携し、まずは実習生として実際の業務を体験していただいてから採用というプロセスを取る場合があります。そして、採用後も1年間は私たち担当者が本人と1カ月に1度面談。2年目以降は2カ月に一度、もしくは本人の希望があれば面談を行っています。加えて、本人および同じ部署で本人のもっとも近くで仕事をしている人、さらに支援機関の方にも入ってもらっての面談も実施。これは“巡回支援”と言っています」

一方で、受け入れ側の担当者に対するフォローも抜かりはありません。
「指導に関する困りごとがあっても、本人にどのように伝えたら良いのか迷うケースが少なからずあります。指導する担当者が変わった時など、このフォローは不可欠です。こちらでは先にお話しした面談記録の蓄積がありますから、それを元に一人ひとりに合わせた対処のやり方をアドバイスしています」

竹下さんによると、年々受け入れ部署が増加していくことで、とある指導担当者から「はじめて受け入れた部署で悩んでいる担当者がいるから、情報交換の場を設けてもらえないだろうか」という要望があったと言います。
「これに応える形で、受け入れ部署の担当者と障がい者の就労を支援する方に集まってもらい“ランチ交流会”を行いました。接し方や指導法などについて、うちの部署ではこのようなケースではこう対処した。たとえば、変化をつけるため、メインの業務の他に空いた時間にこんな業務をやってもらうようにしたら、良い気分転換になったようで、メイン業務の効率も向上したなど、さまざまな成功事例が紹介されました」

現場からの提案で行われた“ランチ交流会”。提案を生んだ背景にあるのは「障がい者雇用の推進は、全社で取り組むべき重要なテーマ」という現場の意識にほかなりません。

雇用した障がい者の自立を支援するため
富国生命では更なる施策を模索中

人事部に「ダイバーシティ推進担当」が置かれたのは、2009年4月。その2年後の2011年4月に「ダイバーシティ推進室」が発足しました。
「現在は女性の活躍推進、介護の問題など多様性の幅は拡大していますが、発足時は障がい者雇用の拡大が活動のメインでした」と竹下さん。現在、その活動は、雇用する障がい内容の幅を拡大してきています。

「障がい者雇用の拡大は全社で取り組むべき重要なテーマである」という認識については既述のとおりです。この認識を新入社員時から醸成するために行われている啓蒙活動が「障がい者をメインとしたダイバーシティの研修」です。
配属が内幸町本社であれ、千葉ニュータウン本社であれ、また全国の支社であれ、障がいのある同僚と接する環境はごく普通のことになりつつあります。富国生命では、障がいという多様性の受容は当然のこと。これを入社時から知るために研修が行われるわけです。

ここからの話題は、富国生命にとっての「障がい者雇用の将来」です。竹下さんは「まだ、考え始めたところ」と前置きし、次のように話されました。
「これまでは雇用が困難だと思っていた障がいの方の採用を積極的にスタートさせて8年。採用時、青年期を迎えたばかりの皆さんも、20代後半という年齢になっています。そうした皆さんがキャリアアップするために、どのような制度を設けたら良いのか。たとえば、業務の練熟度や効率・達成の度合いなどを給与に反映させる評価制度も必要でしょう。意欲のある人の気持ちを大事にする制度を作りたいと思っています」

もう一点、竹下さんは強調されました。
「それは、皆さんの自立の支援です。皆さんにとっての自立とは、働く場の有無だけではありません。健康をどう自己管理するのか、またお金の自己管理能力の向上も不可欠です。そのための研修も必要ですが、生活面の支援は会社だけですべてやれるものではありません。面談などと同様、各種支援機関の方々との協力により、初めて可能になります。何をどのような形で実行していくのか。この大きなテーマを今後は考えていかなければと思っています」

長年勤務するとは、それだけ年齢を重ねることとイコールです。障がい者の人生そのものを支援する。それに向かって企業は何をどこまですべきなのか。富国生命が出す答えを早く知りたいものです。

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