KYB株式会社
理事 人事本部次長
青木 淳一 氏
1919年に創業して以来、「モノづくりが人々の笑顔につながる世の中」の実現をめざし、油圧技術を核とする様々な製品を提供してきたKYB株式会社(以下、KYB)。今日ではグローバルな生産販売体制を構築し、日本だけでなくアジア、ヨーロッパ、アメリカなど、23カ国の拠点で事業を展開しています。
その油圧技術は様々な場所で活用され、チェアスキーなどの障がい者スポーツの発展にも役立っています。特にパラリンピックの日本代表を積極的に支援し、その姿勢が金メダリストを輩出する結果としてつながりました。そんな同社が世界中に送り出す高品質な製品づくりの源となるのは、そこで働く人財だと言います。
「どんなに優れた機械、工場があっても、人がいなければ何も生まれません。特許を取るような製品を生み出すのは高い技術を持った人です。もちろん、技術者に限ったことではなく、技術者をバックグラウンドから支える人も不可欠です。そんな考えから、KYBに創業以来根付いているのは、『何よりも社員を大切にする社風』です」
そう話すのは、理事であり人事本部次長の青木淳一さんです。同社の人を大切にする姿勢は、選考時から始まっています。
「人財を採用して終わりではありません。いかに長く勤務していただくかが重要です。そうした考えから、私たちは入社後のミスマッチを防ぐためにさまざまな取り組みを行っています。たとえば障がいのある方に対して、新卒の場合は入社前にインターンシップとして現場での就労を体験していただく機会を設けています。そこで実際に当社で活躍してもらえそうか、適性を見極めて配属しています」
同社では、障がいのある社員に対して専用の職種を用意しているわけではありません。他の社員と同様に、製造や事務職、IT関連職、エンジニアなど、幅広い職域で活躍しています。そこで大切なのが、いかに適性にマッチした部署に配属するかです。
「新卒採用、キャリア採用問わず、選考時に当社で活躍してもらえそうだと判断したら、配属予定の部署の上長と会っていただきます。また可能な場合は職場見学も実施し、入社後に想定される心配事を解消するようにしています」
たとえば聴覚障がいの場合は、電話応対のない部署に配属し、部署内のメンバーには筆談での対応をお願いするなど、受け入れ態勢を築きます。また、精神障がいの場合は、近くでサポートができるようにまずは人事部に配属し、業務や社内環境に慣れてきたら他部署へ転属させるなどの対応を行っています。
入社後のフォロー体制も、同社の取り組みの一つです。
「ストレスチェックが義務化される前から、KYBでは全事業所に保健師が常駐する『健康管理センター』を設け、全従業員を対象に身体の健康、心の健康のケアをしています。従業員の悩みや不安を早期に解消することが目的です。障がいのある社員の場合は、職場で必要なサポートがあるかについてもヒアリングしています」
これらの入社前後の取り組みのお陰で、同社では障がい者採用においてミスマッチを起こして早期退職というケースがほとんどなく、障がいのある社員の中には役員を務める方もいます。離職者が少ないことは、中途採用で入社する方が多い割に、平均勤続年数15年以上という数字に表れています。
「せっかくKYBに入社するのですから、長く働いてほしい。そして、当社で成長してほしい。そんな想いから、社員の成長をサポートする制度についても注力しています。新卒採用、キャリア採用問わず、技術者教育、語学、通信教育、OA教育など、様々な角度から多数のコースを用意し、誰もがスキルを磨ける環境を整備しています。
また、社員のワークライフバランスを尊重し、有給の他に通院のための傷病休暇を設けるなど、休日・休暇も充実させています。多様な人財が自分の働き方をみつけつつ成長してくれる。それがKYBのめざす職場です」
制度や環境を整備することで、さらなる雇用拡大をめざすKYB。最後に、そんな同社の今後の展望を語っていただきました。
「KYBにおける障がい者雇用は、事業所ごとに人事が中心となって行っているのが現状です。バリアフリー設備なども事業所によって異なります。そのため、もっとKYB全体の取り組みとして、全社的に啓蒙していかなければならないと考えています。トップダウンの活動として社内全事業所に浸透すれば、それがKYBだけでなくグループ各社の取り組みとしてもつながっていきます。全社的な取り組みにする具体策は、まだこれから考える必要がありますが、すでにいくつか構想はありますので、まずはそれらを形にしていければと思います」
考えたことを形にしてきたモノづくり企業、KYB。同社なら、きっとしっかりとした形にしてくれることでしょう。