株式会社日本総合研究所
人事部
次長
齋藤 章 氏
部長代理
寺島 正人 氏
ご存知のように、2013年4月1日から、障がい者の法定雇用率が引き上げられました。民間企業の場合は、従来の1.8%から2.0%に変更されたわけです。そのおよそ1年前、2012年のことです。
「それまでも障がい者雇用に力を入れてきており、当時1.8%だった法定雇用率はほぼ達成していました。ところが、体調不良や定年などで退職者が重なり、雇用率が1.57%にまで一挙に下がってしまったのです」
この話をされるのは、株式会社日本総合研究所(以下、日本総研)人事部の齋藤章次長。日本総研は、ITソリューション・コンサルティング・シンクタンクという3つの機能を有する総合情報サービス企業です。
障がい者雇用の理念が「共生・共働社会の実現」にあることはいうまでもありません。
「弊社も、障がい者雇用が法定雇用率うんぬんでないことは充分に承知しています。しかし、法定雇用率の達成も企業の社会的な責任を果たすうえで重要な要素の一つです。したがって喫緊の目標を、落ち込んでいた雇用率を2.0%まで引き上げることに置いたのです」(齋藤さん)
「障がい者採用に奇策はない」(齋藤さん)という認識のもと、採用をめざしたのは、それまで実績のなかった知的障がい者です。
「まず、ハローワークへ相談にうかがいました。受けたアドバイスは正攻法。職能訓練センターや養護学校とのパイプを作って活動すべきというものでした。加えて、現在何か切り出せる業務がありませんか、という提案もしていただきました。早速、本社から最寄りの職能開発センターに出向き相談。結果として、1名を採用することができました」(齋藤さん)
社内での調整の末、たどりついたのが社員食堂関連の業務。その中のテーブルなどの清掃、食べ終えた食器の洗い場への搬送という業務を任せたのです。また、空いた時間にはオフィスのコピー用紙の補完なども担当しています。
「職能開発センター、地域の支援センター、さらには職能開発センターに入る前の養護学校の先生もおいでくださり、さまざまな支援をいただきました。雇用契約に関しては、親御さんにも説明を行い、内容を確認していただいています」(齋藤さん)
働きぶりについては、人事部の寺島正人部長代理がこう話します。
「初めての採用でしたので不安がなかったわけではありません。しかし、実際に業務に入ると、任せたことは誠実に、そして一生懸命取り組んでくれる方であることがすぐにわかりました。すでに入社して丸4年が経ちます(2016年12月現在)が、業務に対する真摯な姿は全く変わりがなく、私たちも彼のことは非常に信頼しています」
また、「入社後も、職能センターや支援センターの方々、そしてご家族に、定期的に職場での様子を直接見てもらっています。皆さんからの協力を仰ぎながら、定着に向けた支援を行っています」と寺島さん。さらに、勤務地の本社には産業医が常勤しており、障がい内容に関係なく、たとえば体調面での変化があった場合にはすぐに対処できる体制です。
近年、障がい者雇用で積極的に行っているのが、新卒採用。取り組みを初めて以来、この数年は毎年コンスタントに入社されています。
「現在、2.0%の雇用率は達成しています。しかし、法改正もあり、職域の拡大が重要な課題になるわけです。新卒者の採用は、その一環になります」(齋藤さん)
これまでも一般事務等の業務での雇用は実施されてきましたが、さらにいろいろな分野への配属を進めていこうとしています。実際、新卒者の場合、人事、総務、財務などの本社部門で判断力が求められる業務に就いています。
「全部門合同で実施する新人研修には、障がい者の新人も一緒に参加しましたが、彼らは外部講師や同期社員から高い評価を得ています。また現在は、部門ごとの配属人数にばらつきが見られますが、今後はさらに活躍の場を広げていただくため、各部門の本来業務に付随して発生するサポート業務などへの配属も検討していきます。その際、一番重要なことは、日々コミュニケーションをとる周りの社員の理解・協力です。すでに障がいのある社員が活躍する職場であれば理解も浸透していますが、未配属の職場は少なくありませんので、どのような形で社内での啓蒙活動を進めるかを検討しているところです」(齋藤さん)
雇用率未達成から初の知的障がい者雇用、新卒採用の拡充、雇用率達成、将来へ向けての職域開拓と職場への理解促進(啓蒙活動)。
現在、日本総研は障がい者雇用拡大のステップを着実に、齋藤さんの言を借りるなら「地道にコツコツと」進んでいます。
「能力を高め、長く社員として活躍していただく。そして働きにふさわしい対価を得ることでご自身の人生を豊かに作っていく。弊社ではこうした関係を充実させながらビジネスを発展させていきたいと考えています」(齋藤さん)
道のりは必ずしも平たんではないかもしれませんが、今後も“次のステップ”へと進み続けていくことを期待してやみません。