国立大学法人 東京大学
バリアフリー支援室
室長
深代 千之 氏
東京大学に「バリアフリー支援室」が設置されたのは2004年4月。その理念は、東京大学の構成員すべてが社会的責務を自覚することと、研究教育機関としての積極性と独自性がもっとも発揮されやすいカタチでバリアフリーを推進していくことです。こうした考え方に基づいて、設置から約10年余り、様々な活動をしてきました。
そうした活動を紹介する前に、東京大学では、なぜ「障がい者支援」ではなく「バリアフリー支援」という名称になったのでしょうか。その理由を同支援室の深代千之室長は次のように話します。
「本学では障がいのある学生や教職員に対して、社会がバリア、つまり障壁を築いていることこそ問題だと認識しています。そこで多くの有形・無形の障壁を取り除くことを意図して、この名称を用いています」
こうした考えを実践するために、同支援室、本部、部局が三位一体となったサポート体制を築いています。それぞれの役割は、同支援室が様々なサポートのノウハウを提供し、本部はそのサポートに必要な財政的措置を担当、そして各部局で人的・物的サポートをします。密接なコミュニケーションを図りながら連携を図ることで、障がいのある学生や教職員のサポートを実施しています。
では、同支援室の主な役割である「ノウハウの提供」にはどんなものがあるのでしょうか。東京大学では、「ノートテイク」や「パソコンテイク」を実践していますが、こうしたサポート活動に参加する学生のトレーニングを行うのも同支援室の大きな役割のひとつです。
「障がい学生のサポートに参加する学生は、毎年、登録してもらっています。私たちは、サポートの質を保つためにも新たに参加する学生のトレーニングが不可欠だと考えています。そこで活躍するのがバリアフリー支援室に在籍する様々なスキルをもつ4名のコーディネーターです。彼らがノウハウを提供し、サポートスタッフのスキル向上を図っています」(深代室長)
トレーニングとともに学生のサポートスタッフの登録を一元管理するのも同支援室の役割。障がい学生がサポートスタッフによるサポートを必要とする際には、各部局にサポートスタッフの情報を提供し、スムーズなサポートができるように活動しています。
サポートを受けたい障がいのある学生や教職員は、部局もしくは同支援室に相談し、必要であれば部局に申請をすることでサポートを受けられます。そこで同支援室が心がけているのがきめ細やかな対応。面談によるニーズの確認はもちろん、定期試験前や新学期開始前、あるいは大学院進学時など、試験や学ぶ環境の変化によってサポート内容を再確認し、円滑な調整が行えるようアドバイスをしています。
東京大学には様々な大学院・学部・研究所などがありますが、現在、多くの大学院生・学部学生が在籍する駒場および本郷キャンパスに、同支援室が設置されています。
「両キャンパスでは定期的にテレビ会議を行ったり、スタッフが行き来するなど、常に情報を共有しています。この情報共有により、均一なサポートができる体制を築いています」(深代室長)
さらに障がい者に対する周囲の理解浸透を図るために、手話をしながらランチを楽しむ「手話でしゃべランチ」などの啓発活動も行っています。こうした活動によって、障がい者と一般学生の交流が活性化するなどの効果が表れています。
また、同支援室の様々な活動によって、「B.F.mate」と呼ばれる東京大学バリアフリーのための学生ネットワークも生まれています。この「B.F.mate」では、キャンパス内のバリアフリーマップを作成するための調査協力や、学生の意見交換会などを開催し、障がい者が学びやすく、働きやすい環境づくりに貢献しています。
「今は学内での啓発活動や取り組みが中心ですが、将来的には社会に対して『バリアフリー』の考え方や活動を広げていきたいと考えています」(深代室長)
設置から10年、同支援室は新たなバリアフリー推進に向けて動き始めています。