特集 インタビュー vol.06
2017/10/25

「キャリア権」の
社会的な普及で
障がい者の就労や
キャリア形成も
大きく変化する

認定NPO法人 キャリア権推進ネットワーク

理事長
戸苅 利和

職業生活を通じて
幸せを追求する権利が「キャリア権」

戸苅利和氏「キャリア権」はまだ聞きなれない言葉かもしれません。キャリア権を簡潔に表現すると、「働く人が希望する仕事を自ら選択し、職業生活を通じて幸福を追求する権利」ということになります。職業を開始したり、別の職業に転換するときだけにとどまらず、職業生活の全期間を通じて職業の遂行全体について、主体的に設計し、切り開いていく権利は、すべての人々にあるはずです。

こうした権利を社会に広げていく活動をしているのが認定NPO法人キャリア権推進ネットワーク(以下、キャリア権推進ネットワーク)です。キャリア権という概念を広く普及し、すべての就労者がキャリア形成、キャリア展開をしやすい環境づくりのために国や行政、企業、そして教育機関を対象に様々な活動を行っています。

「日本国憲法には、キャリアの形成、展開をするために必要な幸福追求権、労働権、学習権などが規定されています。これらを総合的に捉えるとキャリア形成の重要性が憲法で規定されていることがわかります。また、これまでわが国で働く多くの人たちは、企業の長期雇用システムのもとで、いわば企業丸抱えの人事制度により、企業主導の教育研修によりキャリア形成を行ってきました。
しかし、企業活動のグローバル化や情報化、技術革新により、引退年齢まで一つの会社で勤め上げるといった会社任せでキャリアを全うできる可能性が大幅に低下し、働く人自身が能動的にキャリア形成をしなければならない時代に変化しました。そういった時代背景も踏まえて、『キャリア権』という概念がより重要になってきたのです。そこでキャリア権推進ネットワークでは、キャリア権の概念を広く普及し、より良いキャリア形成ができる環境をつくるための活動を行っています」

そうキャリア権推進ネットワークの活動を説明するのは同理事長の戸苅利和氏です。具体的には、キャリア権に関して識者による講演会、学者、労働組合、マスコミ、企業の人事担当者を招いてのシンポジウムから、大学生等を対象にキャリア権について考える出前授業など、その活動は多岐にわたっています。

特に出前授業は、今後、社会に出て働く大学生や高校生にキャリア権の概念を知ってもらい、積極的にキャリア形成していく姿勢を身につけてもらうために、重要な活動だと戸苅氏は強調します。

すでに障がい者雇用は
「量」から「質」の時代に移行した

当然、キャリア権はすべての就労者が対象であり、障がい者もその中に含まれます。また、2006年に国連で「障害者の権利に関する条約」が採択され、日本は障害者基本法、障害者差別解消法、障害者雇用促進法などの制定、改正を進め、2014年に条約を批准しました。

こうした条約や法律の制定、整備により、障がい者の就労環境は大きく改善されてきました。つまり、障がい者は経済的な自立と社会参加が今まで以上に保障されることになりました。

「これまで日本の障がい者雇用は量的な拡大に重点を置いた政策を進めてきました。法定雇用率制度がその代表です。これによって多くの企業で障がい者雇用が進み、その目的はある程度達成されたと思います。しかし、今後、重要になるのが質的な改善です。障害者差別解消法で規定された合理的配慮や差別の禁止も、こうした質の改善を推進するための法律と捉えることができるでしょう。このように法律的にも障がい者が健常者と同じように働く権利が保障されているわけですから、いかにキャリア形成ができる環境をつくるかが大切になります。そういう意味でもキャリア権は重要な概念であり、障がいのある就労者にとっても豊かで充実した生活を送るための大切な権利だと考えています」(戸苅氏)

まさに障害者差別解消法などの法整備によって、従来の障がい者雇用・就労のあり方から変化を遂げ、これまで以上により良い働き方、より良いキャリア形成を行わなければならない時代に入ったといえるでしょう。

障がい者のキャリア形成や
より良い環境づくりには「相互理解」が不可欠になる

では、障がい者の就労環境やキャリア形成において、どのように質的な向上を図っていけば良いのでしょうか? そのキーワードを戸苅氏は「相互理解と対話」だと指摘します。

つまり、障がいのある社員と人事担当者や職場の上長がお互いに理解し合うことが何よりも大切になるということです。合理的な配慮をするためには、企業側と就労者が意見交換をして、障がい者が自分の持っている能力を最大限に発揮するために、どんな支援や配慮が必要なのかを伝えることから始まります。そのうえで企業側は状況を考慮しながら具体的な施策を行うわけです。

「そういう意味では、障がいのある方も会社に依存するのではなく、自分の障がい内容を的確に伝え、就労環境を改善していくという強い意思が大切になります。キャリア権は、キャリア形成をして自分の人生を豊かなものにするための権利ですが、それを得るためには自らが主体的に行動しなければならないという側面があります。障がい者も自らの障がい内容やどのような配慮が必要なのかを企業に積極的に伝えて、環境を整えていくことでキャリア形成を図っていただきたいと思います」(戸苅氏)

さらに戸苅氏は、一方の企業の人事担当者は今まで以上に個別対応が重要になるとアドバイスします。つまり、障がい内容は人それぞれ異なり、また受けたい配慮も異なります。そうした一人ひとりに対応した職場環境の整備や就労条件の個人別設定管理をすることが、職場の社員皆のキャリア形成を支援することにつながり、企業全体の利益にも結びつくはずだといいます。

「画一的なマニュアルではなく一人ひとりに対応した個別の取り組みが、障がいのある社員の生産効率を上げることにつながり、全社的な生産性向上にも結びつくはずです。そのためにもぜひ障がいのある社員のキャリア形成や就労環境の改善に、これまで以上に積極的に取り組んでいただきたいですね」(戸苅氏)

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