株式会社ツムラ
人事部長
星 洋 氏
「漢方のツムラ」で知られる株式会社ツムラの障がい者雇用率は、2013(平成25)年3月31日付で3.65%。法定雇用率が2.0%に改正されたのは2013年4月1日ですが、ツムラは4年前から2.0%を超えており、以後、急速に上昇しています。
今回、人事部長の星洋さんに障がい者雇用への取り組みについて話を伺ったのですが、基本的な取り組みとしては、「試行錯誤を繰り返しつつ、さまざまな施策を地道に積み重ねていく」というオーソドックスな方法でした。
たとえば、冒頭に示した雇用率。星さんは「障がい者雇用に力を入れて行っていく、という方針があらためて経営トップから打ち出されたことが、雇用率上昇の大きな原動力になりました」と強調します。経営トップにより、障がい者雇用が全社的取り組みと位置づけられ、意思統一されたことはきわめて正統なやり方です。
意思統一がはかられたことで、人事部からの全部門に対する「業務の洗い出し」の依頼もスムーズに進みました。その結果、各部門で障がい者の受け入れ体制が徐々に整っていったのです。
しかし星さんによると、取り組みをスタートさせて以降、ことに入口(面接・採用)の面では試行錯誤の連続だったといいます。
「私たちは、可能な限り長く働いていただくことを前提に採用活動を行っています。そのために重要な取り組みのひとつが面接時のヒアリングです。応募された方の障がいの内容と程度、それにともなう必要な配慮をうかがうのはもちろんですが、どのような仕事に就きたいのか、どのようなスキルを有しておられるのかをヒアリングを通じて正確に把握しておくことが重要です。こうした把握が不十分ですと、職場とのミスマッチが生じ退職につながる恐れがあります」
取り組み当初は、人事担当者が面接時、応募者の希望やスキルと各部門から提出された業務とをすり合わせ配属を決定していました。
「しかし、スキルの把握が不十分だったり、ご本人と部門との間で求めるものにギャップがあったりなどミスマッチが起こったこともあります」
そのため人事部では、一例としてPCスキルのレベルを知るための確認テストを取り入れたり、最終面接では配属を想定する部門の長に必ず加わってもらうなど改善してきました。こうしたことは、決して応募者のあら捜しではなく、ミスマッチを防ぐ、つまり「可能な限り長く働いてもらう」ためのものなのです。
「これで十分とはいえませんが、細かい方策を積み重ねることにより、雇用率、定着率が上がってきているのではないかと思っています」
2013年9月末現在、ツムラでは78名の障がいのある社員が、本社、工場、営業所、研究所などに在籍すると共に、幅広い職種に就いています。
「障がいのある方の場合、業務の選択もそうですが、さらに体調面での配慮をどう充実させていくかが重要になります。当社では、産業医や保健師による随時の健康管理を行っています。さらに、精神障がいの方の場合には、就労支援を行っている機関に支援を仰いでいます。入社決定後、ご本人に居住地区の機関に登録してもらい、支援担当者と事前面談を行います。就労後も、定期面談を実施し、体調面はもちろんメンタルケアも行っています。
星さんは「雇用に関する課題は、現在も少なくない」といわれます。
「たとえば、入社して半年、1年と経過すると、皆さんは成長していきます。成長に応じて、求めるものが変化してくる。それにどのように対応していくか。希望・要望に応えるにあたり、障がいの有無で違いはありません。ただ、障がいの内容などによってプラスアルファの配慮が必要になる場合、どのように配慮していくかが課題の1つです」
ほとんどの課題は、人事部門だけで解決できるものではありません。不可欠なのは、職場の協力です。
「幸い、経営トップが方針を打ち出して以降、障がいのある方の受け入れに理解を示す社員が増えています。社員の多くは、障がいのある方と接点をもった経験がありませんでした。それが、ある時期から同じ職場で一緒に働くことになったわけです。実際に接してみると、フォローについて考えるようになっただけでなく、見習わなければと思う局面もあったことでしょう。このような経験により、ものの見方が広がったり考え方が豊かになった社員は少なくないはずです」
星さんは、「将来的には、障がいのある社員と共に働き、互いに成長していくことが当たり前にできる会社になっていければと思っています」と話を結んでくれました。