株式会社朝日新聞社
管理本部 人事部
主査
石原 由美子 氏
朝日新聞社の障がい者雇用について、管理本部人事部主査の石原由美子さんは、「これまでも障がい者の採用に取り組んできましたが、『障がいがあるから、特別にこの仕事を』という限定的な配属をするわけではなく、すべての社員が同じように働くことが基本です」と言われます。そこで石原さんに、配属についてうかがいました。
「雇用への取り組みは随分前から行っており、たとえば20代で入社されて色々な部署を経験し、現在50代で活躍しているような方は少なくありません。その方のスキルや適性、希望などに応じて、可能な限りそれに相応しい配属をしています。例えば、車いすの方でも適性があれば記者部門への配属は可能であり、記者として能力が発揮できる環境を会社として整えるということです。職種は多岐にわたっており、さまざまな部門・部署での配属実績があります」
肝心なのは仕事への適性であり、障がいの有無ではない――。これが朝日新聞社の採用の考え方のようです。
また、障がいに関するサポートについても、働きやすい環境づくりをめざしています。
「例えば、聴覚に障がいのある方が入社された場合、音声が聞き取りやすくなる障がい者用の電話機を用意するといった機器によるサポートは当然ですが、そのほかにやはり職場の同僚の協力ですね。筆談でのコミュニケーションや、会議の際は終了後に不明瞭な内容について説明で補う。こうしたサポートは自然に行われています。周囲の人間が一緒に仕事をしていくなかで、当たり前のことと思ってやっているわけです」
「障がいの内容によってサポートは異なりますし、障がいのある方は、最初は何をどうやればいいのかという戸惑いがあるかもしれません。しかし、当社はチームで動く仕事が多く、お互いに相手をフォローしながら業務を進めることが、障がいのある方のサポートにも活かされているのだと思います」
石原さんは、サポートについてこうも言われました。
「介護や育児などのため、フルタイムで働けない社員もいます。その場合、フォローするのは当然のことです。障がいのある方へのサポートもこれと同じで、決して特別なことではありません」
このように、朝日新聞社の採用は「当たり前のことを当たり前に、自然な形で働いていただく」ことを基本としているようです。
前述のように、配属について石原さんは、「適性によって決めている」と言われました。そのプロセスは、次のようになっています。
「朝日新聞社では大きく、記者、ビジネス、技術の3部門で募集をしています。障がいの有無は無関係です。例えばビジネス部門の場合、入社時点ではまだ配属先は決まっていません。まず、入社後2カ月間の研修に入ります。この間、広告、販売、企画事業などいろいろな部署を回って仕事を経験。それを通じて適性を判断するとともに、本人の希望も加味したうえで配属を決定します」
「配属後も、今後経験したい仕事や希望の勤務地などをアピールできる機会として、春と秋に実施される自己申告制度があります。例えば、障がいと仕事との関係で悩みがあるというような場合は、所属長による面談も踏まえてその方が抱える事情をうかがい、業務の変更などについてもできる限り対応します」
「新聞社は職種のデパートです。個人のやりたいことや能力を生かすことができる仕事が豊富にあり、部門を超えた最適な人材の配置や、ワーク・ライフ・バランス(WLB)のきめ細やかな運用をめざしています。こうしたフォローアップに力を入れている点は、強調したいですね」
朝日新聞社の社風をうかがったところ、「社風がないのが当社の社風」とのこと。
「言い換えれば、風通しがとてもいい会社なんです。実にさまざまな人がいて『型にはまらない人たちの集まり』というのが特徴ですね。だれでも自由に意見が言えるし、若手のアイデアでも中身がよければどんどん取り入れられ、重要な仕事が与えられる。ひとりひとりは個性的ですが、みんなが結集することでいいアイデアが生まれてきます」
「報道機関ならではの風土」と言っていいでしょう。最後に報道機関としての障がい者雇用について、石原さんは印象的な話をしてくれました。
「法律に則って雇用率を達成するということだけではなく、それにプラスして、報道機関としての使命もきちんと果たしていかなければならない。障がいのある方が普通に働けて普通に暮らせる社会をつくっていく。それを実現させるために、社会は、個人は何をすべきなのか――。新聞社はこうしたテーマについて、紙面やデジタルのサイトを通じ積極的に報道し、発言していく社会的な責任があります。当社は、その使命を果たそうという思いを持って行動していきます」
自社の障がい者雇用の拡大・充実とあわせ、報道機関としてやるべきことをきちんとやっていく。これが朝日新聞社の障がい者雇用に関する理念なのです。