株式会社富士通エフサス
人財総務本部 人事部
専任部長
早乙女 佳友 氏
富士通グループ各社では、障がい者採用に当たり「配慮はするが遠慮はしない」と応募者に伝えます。その意味は「担当してもらう仕事は、障がいの有無と無関係。すべての社員にまったく同じ仕事を任せる。ただし、仕事を進める上で必要となる配慮はしっかりと行う」というものです。富士通エフサスも、同様の姿勢で採用・雇用を実施しています。
では、富士通エフサスが考え実行している「必要となる配慮」とは、どのような内容なのでしょうか。具体例を挙げて話をしていただいたのは、人事部専任部長の早乙女佳友さんです。
「今春(2013年4月)、新卒で初めて聴覚障がいの方が入社しました。今までも聴覚障がいの社員は何名か在籍していますが、職務歴のある方なので経験を生かしたキャリアアップに関してほとんど問題はありませんでした。しかし新卒社員のケースでは、キャリアアップを図るにあたり、情報をどう円滑に獲得していくか、そのための配慮が不可欠になります。情報保障がないと、いくら能力があってもそれを十分に発揮できない恐れがあるわけです」
入社前から、彼―仮にA君とします―の配属先は決まっていました。
「配属部署は技術者集団。ハードウエア、ソフトウエアの品質保証が業務の中心です。入社後、約1年間の研修で、仕事に必要となるITスキルを身につけてもらいますが、A君の入社に先がけて、配属先から『サポートチームを作りましょう』という提案がありました。それを受けて、配属先と私たち人事担当、および研修部門の意見も聞きながらさまざまな議論を重ねました。そして情報保障の観点から、サポートチームには受入部門の専門技術者が交代で参加すると共に、手話通訳者やノートテイカーを手配することにしました」
しかし、「それで万全」というわけにはいかなかったのです。
「手話通訳やノートテイクを行ってもらう方にITのバックグラウンドがない場合、研修の場では講師の話を直訳するだけにとどまってしまいます。“行間を埋める”というか、講師の話をITの知識で補完して伝える。その能力が求められます」
しかし、そのような人材はなかなかいるものではありません。
「当社のグループに、人材派遣を事業としている会社があります。そこからタイピングに長けたスタッフを2名派遣してもらい、交替でノートテイクをお願いすることにしました。彼女たちもITを勉強したわけではないので、最初はなかなか行間を埋めるところまではいきませんでした。ところがずっと一緒に研修に出てノートテイクを続けているうちに、ITスキルを身につけてしまったのです」
研修部門からの報告では、サポートチームのフォローのお蔭でA君は研修のスピードに遅れることなく、順調にカリキュラムを消化していると、早乙女さんは話してくれました。
A君へのサポート、情報保障もその一つですが、それはトントン拍子に運んだわけではありません。早乙女さんによると「試行錯誤の繰り返しだった」とのこと。しかし、その試行錯誤があったからこそ、紹介したA君に対する情報保障の方法が確立しました。
「来年(2014年)には、新卒で聴覚障がいの方と視覚障がいの方の入社が決まっています。その方たちをどのようにサポートしていけばよいのか。そのため、配属先のメンバーにも参加してもらい、ワーキンググループを作りました。視覚障がいの方が新たに入社されるので、その方に対する情報保障のあり方を考えるなど、いろいろ勉強しているところです」
早乙女さんは「ワーキンググループには、配属先メンバーの参加が重要です」と強調します。
「どのようなサポートが必要なのかについて、人事だけでなく配属先からの意見も加えて考える。それにより、人事では思いつかない、アイディアが生まれる可能性は大きいと考えています」
早乙女さんは話の中で「気づき」ということを何度か言われました。
「障がいのある方に入社していただくことで、私たちは新たな気づきに触れることができます。これに限らず、障がいのある方のプランニングや、一緒に働いていくことで新しいサービスにつながる気づきがたくさんある。私はそう思っています」
障がいのある社員に対するサポートを、ビジネスにまで拡大させる可能性を探る。これは斬新な発想です。
「これからの障がい者の受け入れは、法定雇用率の達成のためということではなく、受け入れる当社にとってもビジネス拡大につながるという意識をもつことで、ノーマライゼーションの考え方に基づく本来の姿にすることができるはずです。私たちは、障がい者雇用をそのような方向性で進めていきたいと考えています」
富士通エフサスが、障がい者雇用にこれまでにない道を拓くことを期待します。