エスビー食品株式会社
管理サポートグループ
人事総務室 人事秘書ユニット マネージャー
加治 正人 氏
エスビー食品の創業者・山崎峯次郎氏が好んだ言葉に『在平素』という禅語があります。峯次郎が考える在平素とは、『常日頃から一つひとつを積み上げていく』『日頃の地道な努力を大切にする』というものです。この在平素の精神は、エスビー食品の社風を形づくっており、さらにそれは、障がい者の採用・雇用に関する活動にもおよんでいます。
今回のインタビューは、「いかに配属候補先である現場を巻き込んでいくか。採用と雇用において、これが不可欠なものだと思っています」という、加治正人さんの言葉から始まりました。加治さんは、障がい者採用を担当する人事秘書ユニットでマネージャーを務めています。
「当社では障がい者採用を、次のような流れで行っています。まず、サーナやハローワークなどが主催する合同面談会に参加。採用担当者との面談を通じて、『この方はエスビー食品にマッチする人材なのではないか』と判断した場合、人事内で、どの部署のどんな仕事がふさわしいかを検討します。そして、該当部署のマネージャーと一緒に、履歴書と併せ、面談時に受けた印象、人事担当者が感じた個性や持ち味などを紹介した上で、この部署のこの仕事に向くのではないか、と検討していきます。マネージャーには、その後の面接を含め採用活動を我々といっしょにやってもらう。つまり、現場を巻き込んでいくわけです。そのメリットは、配属後に現れます。マネージャーは、自分の判断でその方に可能性を感じたのですから、受け入れ後はきちっと育ててくれます。個別に、そしてきめ細かく、現場に寄り添って採用を行っていく。これが障がい者の採用・雇用に関する我々の基本姿勢です」
地道に努力し、コツコツと地味な活動を一つひとつ積み上げ、成果に至る。エスビー食品の採用担当者たちの活動ぶりは、在平素そのものです。
加治さんに、障がい者雇用に関する課題をうかがったところ、「職域の拡大」という答えでした。
「当社の障がい者雇用についての考えは、『まだまだ取り組みが不十分である』というものです。理由の一つは、配属先にあります。雇用の中心は本社であり、地方の営業所は未配属、工場も一部の部門にとどまっているのが現状です。しかし逆に、職域拡大の余地は十分に残されていることになります」
では、職域の拡大をどのように実行していくのか。やはりこれも、在平素の精神がベースになります。この点について加治さんは、エスビー食品の事業の原点である『スパイスとハーブ』を例に話をしてくれました。
「コマーシャルなど広告をたくさん打ったからといって、スパイスやハーブの販売が伸びるわけではありません。実際に体験してもらうことで、スパイスとハーブの素晴らしさを知っていただき、その結果『これは良い』との評価が得られるようになります。この評価が、人を通じて広まっていき、販売の拡大につながります。このようにスパイスやハーブは、お客様一人ひとりに理解していただかなければ、決して良さは伝わりません。
雇用もこれとよく似ています。私たちは、配属先を一つ、また一つと拡大させていかなければなりません。私たちの役割は、そうした事例を数多く具現化していくことです。それを通じて障がい者雇用への理解を浸透させていく。現場では、配属された方の得意なことを把握した上で、そこを伸ばしていこう、そのためには障がいに対するこんなフォローが必要になる、という意識、つまり戦力として育てようという意識が醸成されていくと私は考えています」
道は決して平坦ではなく、またかなりの時間を要することでしょう。しかし加治さんによると、「エスビー食品は、何事についても上から一気にではなく、下から地道に根づかせていくのが得意な会社です。この『地道につないでいく』というのが当社の核なのだと思います」とのこと。職域拡大は『急がば回れ』こそが最善の道ということを表す事例でした。