中外製薬工業は、中外製薬が開発・販売する医療用医薬品の製造を行っています。
企業と就職希望者が最初に直接出会う場として、合同企業面談会という機会があります。そこで企業は、「出会いのきっかけづくり」にさまざまな工夫をしますが、それについて同社は、冒頭に挙げた事業の特性を見事に活かした手法を取り入れています。決して奇をてらったものではなく、薬剤の写真をパネルにして置いているということです。
「当社では、抗がん剤、関節リウマチ、人工透析、狭心症、免疫性疾患など幅広い疾患に対応する治療薬を製造しています。そうした疾患により障がいを負った方は、当然ですがご自身の治療薬に精通しています。薬の写真を見た方に『これは中外製薬工業がつくっているのか』とわかっていただくことが出会いのきっかけになる。そのように考えました」
お話しくださったのは、経営管理部の小高祐吉副部長です。
薬剤の製造が事業の核である同社の場合、人員配置の比重は現場である工場が圧倒的に高くなります。
「医薬品の製造工場は、単にバリアフリーであれば障がいのある方の受け入れができる、というわけにはいきません。残念ながら製造現場は、障がいのある方にとって危険が皆無とまでは言えず、その点が受け入れを困難にしています」
ただ、工場には数多くの職種があり、障がいによっては勤務可能な職場があります。そこで、職域を広げることが就業の場の拡大につながる可能性も十分に考えられるわけです。
「まだ事務系への偏りはいなめないものの、電機・機械や品質管理など技術系の職域でも障がいのある社員が働いています」
このように少しずつではあるかもしれませんが、障がい者に対する職域は確実に広がってきています。
配属される職場に対し、障がいの内容、程度、必要なサポートなどについて、中外製薬工業ではどのように取り組んでいるのでしょうか。小高さんは次のように話します。
「配属部署の上長には障がいに関する情報は伝えますが、それ以外の人たちに私たちから知らせることはありません。周りに知らせる、知らせないはすべて本人に任せており、たとえばサポートが必要なら自分から伝えてもらうことにしています」
突き放しているような印象ですが、決してそうではありません。小高さんがこう話すのも、中外製薬工業が培ってきた風土とそこで働く社員に信頼を寄せているからこそのことなのです。
「心臓に障がいのある社員のケースです。その方の障がいについて職場の人間はみな知っていたのですが、体調が崩れた際、どのような様子になるかまでは知りませんでした。実際に具合が悪くなったとき、同僚たちは本人に聞きながら必要な行動を取りました。ここで彼らは『その人に対し何をすべきなのか』について、知識ではなく実体験を通じて身につけたわけです」
具合が悪くなった同僚を前に、周りの人たちはごく自然な形で支援に動きました。これが中外製薬工業の風土にほかなりません。
「当社の場合、『こうだからああする』とか『ああだからこうする』というような対処法をあらかじめ決めるのではなく、基本は自然体。その場で必要になったことをきちんとやっていくということです」
同社は「人に優しい会社」とよく言われますが、それも紹介した“自然体”という風土から醸成されたものだと思います。
「親会社の中外製薬は、ダイバーシティの実践を大々的に謳っており、その最先端を走っている企業の一つです。当然、当社でも同じ文化や考え方を継承しています。今後、その実践化をどのような形で100%に近づけていくか。これが大きなテーマになるでしょう」
障がい者の雇用も含むダイバーシティの実践。それは中外製薬工業らしく、あくまでも“自然体”ではかられていくはずです。