全国農業協同組合連合会(JA全農)
人事部 人材育成課
課長
高岡 公彦 氏
人事部 人材育成課
副審査役
西野 博文 氏
JA(農業協同組合)グループでは、組合員(一般企業の出資者=株主)である農家を対象に広範な事業を行っています。その中でJA全農(全国農業協同組合連合会)が担う役割は「経済事業」です。簡単にいえば、生産者と消費者の間に位置して販売事業と購買事業という“商活動”を行う組織。イメージとしては“商社”です。
「組織としては1つですが、機構としては東京都千代田区大手町の本所と34の都府県本部があり、障がい者の採用活動は本所と各県の本部ごとに行っています。そのため、以前は雇用率にバラツキがありました」
こう話すのは、人事部人材育成課の高岡公彦課長です。
「このバラツキを是正し、組織全体で障がい者雇用を促進するために何をすれば良いか。採用のフィールドについては、各本部と地元のハローワークや職業訓練校との連携、雇用のフィールドでは職域の開拓。こうしたオーソドックスかつ地道な活動を通じて雇用の拡大に努めていきました」(高岡さん)
その結果、法定雇用率を達成。さらに現在は、より一層の雇用拡大を目標に活動を進めています。
JA全農では求める人材像を「農業に関心があり、明るく前向きで、チャレンジ精神・改革意識の高い方」としています。とりわけ「農業に関心があり」がキーワードです。
「長らく農業は“一子相伝”の世界、つまり、独自のノウハウを代々伝えていくことを核に営まれてきました。しかし、近年のように経営規模の拡大化が進んでくると、外から入ってくる人にもノウハウを正確に教える必要性が生じてきました。ですが、これは簡単なことではありません。当会ではそれに対応するため、ノウハウをデータ化して会員に提供する、さらに使える形にして農業経営をサポートする部署を設けています」
人事部人材育成課の西野博文副審査役は、日本の農業の大きな変化とそれへのJA全農の対応についてこのように説明されました。
「この部署では障がいのある職員が研究成果を発表する冊子づくりを担当し、会員へ配布しています。いわば農業の最先端にかかわる業務。言葉を換えるなら、農産物を流通させる当会の本務の一環を、コミュニケーション(情報)ツール作成によって担っているわけで、そうしたことに共感してくれる方、情熱を抱いて取り組んでくれる方にはやりがいのある業務だと思います」(西野さん)
JA全農の障がい者の雇用形態は、新卒も中途も嘱託(短期)からスタートします。半年ごとに雇用契約を更新していきます。したがって採用活動では苦戦を余儀なくされているものの、当面、この雇用形態を継続させる方針です。理由は「着実に業務に慣れて、長く勤めてもらいたいから」(西野さん)だといいます。
「10年、20年、30年と長期にわたって勤務していただく方を雇用する目的で、近年、新卒者の採用を強化しています。採用活動で大切にしているのは、農業に対する関心の深さと当会の事業への共感。半年ごとに更新を重ねる中で、農業への関心をさらに深めてもらうと共に業務のスキルアップをはかってもらい、その上で常用雇用への転換にチャレンジしていただく。時期は、おおよそ入会から2年後です」(西野さん)
この仕組みを導入してからの第1期生採用は2013年4月。以降、毎年1名ないし2名の採用を行っていますが、4年目の前期、2016年9月末での退職者は皆無。常用雇用者もすでに誕生しています。退職者ゼロの背景にあるのが、やりがいのある職種への積極的な配属と常用雇用へステップアップするためのフォロー体制の充実です。配属については西野さんが紹介します。
「全員、事務職での採用ですが、第1期生の場合、神奈川県にある営農・技術センターに配属。センターでは各農協で農家を指導する職員の研修を行っており、現在ではその資料の準備や配布を担当しています。彼女は、常用雇用者にステップアップしました。また、先に紹介した農家のノウハウに関する研究成果発表のための冊子づくり、米の販売に携わる部門、酪農製品販売に携わる部門、人事・経理などの管理部門への配属など。いずれも各部門でキーになる業務であり、農業の最先端にかかわる業務を担当しています。なお、常用雇用へのチャレンジに関しては、面接時にきちんと伝えています」
フォロー体制に関しては、高岡さんです。
「研修は総合職とすべて同じ内容。人事がフォローするビジネススキルやコミュニケーションなど基本的なものについては『これをもっと学びたい』という希望に応じた研修を選んで受けてもらっています。業務にかかわる専門的な知識に関しては、配属先で研修を実施。常用雇用へのステップアップの面では、更新前、更新時での面接、1年経過時、2年経過時の面接。この場合、人事はもちろん、配属先の課長など上司による面接も行われます。人事と部門をクロスさせる形で、ステップアップのフォローにとどまらず悩みごとの相談もうかがい、それを解消していく。こうして業務のスキル向上と、やる気・やりがいというモチベーションの向上をはかっていくわけです」
「JAグループの経済事業を一手に担う」というポジションにあるJA全農。かかわる業務のすべてが、農業・農家の経済活動を流通面から牽引しています。