国立職業リハビリテーションセンター
職業指導部 職業指導課
課長
菅沼敬一 氏
職業訓練部 訓練第一課・訓練第二課
課長
岡谷和典 氏
「国立職業リハビリテーションセンター(以下、職リハセンター)」が開設されたのは1979年。当初、職業訓練の対象は身体障がいの方に限られていました。それが大きく変化したのは2002年のことです。職業指導部職業指導課の菅沼敬一課長と職業訓練部訓練第一課・訓練第二課の岡谷和典課長にお話をうかがいました。
「この当時、今後は身体障がいの方だけでなく、精神障がい、発達障がい、高次脳機能障がいの方たちなど、職業訓練上特別な支援を要する障がい者(以下「特別支援障がい者」という。)への支援も重要になるということで、<職域開発科>という訓練科目を新たに設けました。発足以降年々受け入れを拡大して、現在では訓練生定員200名のうち、約5割がこうした<特別支援障がい者>です」
では、なぜ職リハセンターへ入所する<特別支援障がい者>が増加したのでしょうか。菅沼さんはその背景をこう話します。
「近年、このような障がいのある方のハローワークへの登録者が増えており、その結果、当センターで職業訓練を受けたいと希望する方が増加しています」
また、菅沼さんは「法定雇用率が2.0%へ改正されたことも大きな要因」と考えています。
<特別支援障がい者>を対象とする職域開発科の場合、訓練内容は従来の訓練科より柔軟なものとなっています。これについては、岡谷さんにうかがいました。
「職業能力開発促進法では、訓練科ごとにどのような内容の訓練を何時間行うということが細かく定められています。しかし、<特別支援障がい者>の場合、苦手とするコミュニケーション力の向上やストレスへの対処方法などを身につけることが大変重要であることから、職域開発科では社会生活への適応力を高めるためのトレーニングや、個別の障がい特性などに沿ったカリキュラムを用意するなど、さまざまな工夫をしています」
次にこうした“工夫”の成果について一例を紹介します。
「精神障がいの方のケースです。その方は職域開発科で訓練を受けた後、運送会社に就職し、現在まで長期にわたり継続就労されています。就職活動にあたっては、まず会社側が想定されている業務を挙げてもらいました。業務については事務作業だけではなく、一部体を動かす作業も盛り込んでいただきました。これを受けセンターではできるだけ実務に近い訓練を行いました。その後、企業内訓練(実際の職場での実習)を経て、就職が決まりました。現在、事務作業と荷物の仕分け作業を担当していますが、実習前に想定していたとおり、体を動かす作業は気分転換にもなっているようです」
職リハセンターでは、長期的な就職支援を取り入れています。これが<企業連携職業訓練>です。開始は2008年。「雇入れを検討している企業との密接な連携により、特注型の訓練メニューによるセンター内での訓練と実際の企業現場での訓練(企業内訓練)を組み合わせた職業訓練及び採用・職場定着のための支援(企業連携職業訓練)を行っています。
特別支援障がい者の雇用に際し、企業の大きな不安の一つは“職場定着”の問題です。面接だけでの採用では、企業も本人も入社後『こんなはずではなかった』という相違がしばしば生じます。企業連携職業訓練は、相違を最小限にするために考案しました」
企業内訓練は、3週間から6週間と長期に設定されています。
「企業には訓練を受ける方の障がいへの配慮や仕事の指導法など、個々人に関するノウハウをすべて伝えます。その上で企業の担当者に実際の指導を行っていただく。このOJTで明確になった問題点をセンターに持ち帰り、そこに焦点を絞って訓練を実施します。そして再度、企業内訓練をやっていただき『これだったら働いてもらえる』『この会社のこの仕事ならやれる』と双方が納得すれば雇用という流れになります」
企業連携職業訓練の実施企業実績は、年間20件から30件。菅沼さんも岡谷さんもこの数字は「まだまだ少ない」としています。
「企業としては企業内訓練期間が長い点に導入へのためらいがあるようです。しかし、企業においても非常に関心の高い特別支援障がい者の職場定着を実現させるには、本人とじっくりと向き合っていただくことが不可欠になります。課題点の解決については私たちもお手伝いを惜しみませんし、企業のニーズに対応したオーダーメイドな訓練も可能です。職場定着ということを考えれば、是非取り入れていただきたいと思います」
「加えてセンターでは、職業訓練に当たって特別な支援が必要な障がいの方の受け入れや効果的な職業訓練実施のための指導法に関し、ホームページに『職業訓練実践マニュアル』を掲載しています。これには、高次脳機能障がいなど後天的に障がいを発症した方の訓練について、センターが蓄積してきたノウハウも掲載されており、これも是非活用をお願いしたいと思います」